彼岸と此岸の狭間にて
『間もなく郡山です。お下りの方は…We will soon stop at Koriyama.…』              
平日の東北新幹線は空席が目立った。                   

香澄には何回か電話をしたが繋がらなかった。留守録に入れる必要はないと思ってそのまま電話を切っていた。                        
新幹線は速度を落として入線し、ゆっくりと停車する。                                   
(さみい〜っ!)                
『東北の春は遅い』とよく聞くがそれを肌で感じて知る。            
慣れない駅構内を抜け何とか駅の外に出て山中に電話する。                    
「もしもし、葵ですけど今着きました……5番のバスに乗って『○○薬局前』で下りるんですね!?……はい、また、電話します」                         
(まだ5時過ぎなのにもう暗くなっている)                            
山中に言われた通りに5番のバスに乗り込んで出発を待つ。                                                                                                         





『次は【○○薬局前】。佐藤犬猫病院はこちらから…』                       
バスは帰宅客で混雑しており、誰かがボタンを押す。

『ピンポ〜ン!』                
バスは注文通りに停まると多数の乗客を掃き出す。                                  
葵は一番最後に下りて東北の冷たい空気を吸い込む。見渡すと小さい路地が何本かあり山中のガイダンスなしでは目的地に着く事は不可能である事が分かった。            

「葵君ですか?」                
携帯を取り出そうとしていた矢先に呼び掛けられる。見ればバス停のすぐ脇の路地に人影があった。
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