彼岸と此岸の狭間にて
「あっ、そうです。山中さんですか?」                  
「はい…」                   
暗闇から表れたのは小柄で細身の人物であった。                          
葵が山中を見た瞬間、            
自然と

涙が

溢れてくる。                  
(あれっ、初めて会ったのに…)                     
胸を締め付けられるが、             
どこか懐かしく                 
暖かい                     
想い。                     
(なんだろう、この気持ちは…)                      
時空を超えた                  
普遍的で                    
本質的な                    
感情。                                 
「よく来てくれたね」              
右手で涙を拭くと、山中の差し出した右手を握る。             
(暖かい…)                  
その暖かさは山中がここに確かに実存している事を証明するものだった。                           

「すぐそこだから行きましょうか?」

葵は山中の丸まった背中を見ながら後から付いて行く。                       


バス停から100メートル程行った所に山中家はあった。                      
「ここです」                  
平屋建ての小さな家を指差す。                                                                                  



家の中は『ガラン』として家財道具は殆どなく、奥の部屋に敷きっぱなしの一組の布団が見えた。                
「私も病院暮しが長くて…妻が死んだ時に必要ないかと思ってみんな処分しちゃったんです」
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