彼岸と此岸の狭間にて
「どうもありがとうございました。また、なにかあったら電話しても良いですか?」                      
「うん…出ない時は入院したか、死んだと思って。ははははっ…」

「縁起でもない!!」              
(よく笑う人だなあ!こっちまで楽しくなる、ふふふ…)              
「では、お体にお気を付けて…」

「うん、ありがとう。駅までは大丈夫!?」                
「はい。では、失礼します」                       
引き戸を閉め、先程の薄暗い路地に出る。                 

(寒い〜〜っ!!)               
ホームに降り立った時より寒さが一層増していた。                         
時間を確認するため、携帯を取り出す。                  
香澄から電話とメールが入っていた。留守録にはメッセージは入っておらずメールを見る。            

『ごめんねぇ。今日は家庭教師の先生が合格祝いをしてくれるというので、銀座にお買い物と食事に行ってたの。電話連絡が付かない時はメールで連絡して…夜の九時ぐらいには帰っていると思うよ』                   

(あいつと一緒ってことか!?……新幹線から電話すれば良いか!?)                                                                                                    




葵が東京の自宅に戻ったのは午前零時に近かった。結局、香澄に電話はしなかった。                                                                      



『山中英治』の訃報(ふほう)が入ったのは、それから5日後の4月初め、雨が激しく降る日の事だった。
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