彼岸と此岸の狭間にて
新宿で鰻を食べてから見せ物小屋や小間物屋などを覗いて歩く。                     
「これなんかお似合いだと思いますよ」                  
「じゃあ、それ貰うよ」             
葵は店主から『りんどうの髪挿(かんざし)』を受け取ると、雪乃の髪の前方から挿し入れる。                 
「うん、とっても綺麗です」

「ありがとうございます」            
顔を赤らめる雪乃。               
「雪乃殿、綾野とお子達の物を選んで下さい」               
少し驚いた様子ではあったが素直に髪挿を選び出す。                                                                        
「ありがとうございました」

小間物屋を後にして歩き出す。                      
「綾野様もきっとお喜びになります!」                   
「それは良かった」               
「葵様は本当にお心がお優しくて……」                  
「ははははっ、照れるなあ…」                                  
楽しい時間が過ぎるのは早いもの。気付けば、もう日が西に傾き掛けていた。             
「遅くなるのも綾野達に心配を掛けますから、ゆっくりと帰りましょう!?」                    
足を原宿に向ける。                           
「雪乃殿…」                  
「はいっ…!?」                
「山中殿の事についてなんですが、何か聞いてますか?」             
「いえ、兄は仕事の事については一切話しませぬので…」

< 157 / 207 >

この作品をシェア

pagetop