彼岸と此岸の狭間にて
「この度は残念でございました」

「はい、とても口惜しくて…お上がりになって焼香していって下さい」                
「では、遠慮なく…」                                      
店の奥の部屋に『庄三郎』の遺体が棺に納められていた。                      
茂助が棺の側に座っていた庄三郎の妻に葵の素性を説明する。                    
「これはこれはわざわざありがとうございます」              
「この度は何と申して良いやら…これは些少でございますが…」

「これはご丁寧にありがとうございます」                    
葵は紙に包んだお金を『香典』として手渡し、それから焼香を済ます。                                           
「茂助殿、ちょっと…」             
葵は茂助を廊下の端に呼ぶ。                       
「襲った人物は分かったのですか?」                   
「それが残念ながら…旦那様が所用で夜、外に出たところを後ろから襲われたそうで、誰も見てないのです」                       
「庄三郎殿とは話せたのですか?」                    
「私が戻って来た時は虫の息でダメでした」                   
「では、荻原の要求は?」            
「今のところはありませんが今後どうなるか!?」             
「暖簾分けはどうなるんですか?」                    
「当分の間は無理でしょう」

「そうですか!?また、近いうちに寄らせて頂きます」

「是非とも…」                             

葵は山中のいる駒込に足を向けて歩き出す。
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