彼岸と此岸の狭間にて
弥兵衛に聞いて山中が詰めている凡その場所は分かっていたが、会えるかどうかの保障はなかった。               
(この辺りは殆ど畑と山しかないなあ…)                 
起伏の激しい道を歩いて行くとやっと人の多い通りににぶつかる。それにつれて門構えのしっかりした家も多くなってくる。                
                              
暫らく歩いて行くと長い塀で囲まれた屋敷に出くわす。            
(表札はと…『柳沢』…か!?)                     
葵は柳沢邸を通り過ぎて通りの外れまで出てしまった。               
(あれっ、もう家がない!)                       
仕方なく今来た道を引き返す。              
(このうちのどれかなんだろうけどどれかな!?)                         
通りにたたずんで暫らく様子を見る事にする。               
(静かだなあ!誰も通らないや!)                    
初秋の風が屋敷の周りの木々を騒つかせているだけだった。                                        

真ん中の大きな屋敷から浪人風の男がひとり出て来る。                       
(あの屋敷は…?)                           







柳沢の屋敷の前に立ち、分厚い木の扉の隙間から中の様子を窺う。                  
(全然見えないや…)              
中を覗くのに夢中になって後ろから人が近づいてくるのに気付かずにいた。                          
「貴公、そこで何をしている!!」                    
慌てて振り向くと体のがっちりとした侍が立っていた。                       
「いや、別に…」                
「う〜ん、怪しい奴!」             
刀に手を掛けようとしている。
< 160 / 207 >

この作品をシェア

pagetop