彼岸と此岸の狭間にて
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい。本当に怪しい者ではないんです」               
「う〜ん、ますます怪しい。間部の回し者だな!?」            
「いや、全然、違っ…あいててて…」                   
葵は右手をねじ挙げられて屋敷の中に連れ込まれてしまう。                     


「山中殿、山中殿!」              
その侍は庭先から屋敷の奥へ向かって叫ぶ。                            
廊下を渡って来る足音が聞こえる。                    
「いかがいたした、長谷部殿!!」                    
「お〜っ、山中殿、家の前に怪しい奴が!こうして捕えて参りました」                
「だから、違うんだって…」                                   
山中は長谷部が捕えている男の顔を覗き込む。               
「あれっ、葵殿ではないか!?どうしてまた?」              
「お知り合いか?」               
「この男が先日話した『紫馬葵』で御座る」                
「えっ、この御人が…?」            
長谷部はすぐ様、掴んでいた手を離す。                                                                                                






「とんだ早とちりで、本当に申し訳ない」                    
「いや、もう良いですよ」            
「葵殿の顔が極悪人に見えたのではないで御座るか!?あはははっ」                 
「そうですかあ?」               
「いやいや、どちらかと言えば、異人の様な顔立ちで御座るよ」                               
葵は誤解が解けて柳沢の離れに案内されていた。
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