彼岸と此岸の狭間にて
〔3〕         

「どうぞ、こちらでございます…」                    
山中英次の訃報を受けてから10日後に、葵は明願寺を訪れていた。そして、明願寺の住職に案内されて山中家の墓の前に今、立つ。                       
『山中家代々の墓』と記された黒い御影石の墓があった。            

菊の花を供え、水を墓石に掛け、焼香してから手を合わせる。それから後、墓の裏側に回ってみる。               
そこには最近納骨されたと思われる『山中英次』の名前が刻まれてあった。だが、『山中光太郎』の名前はなかった。         

もう一度確かめる為、表に回る。『ふと』目を転じると傍に小さい丸い石が…           
「あの〜っ、これは?」             
「それもお墓ですよ。昔はひとりに一つのお墓が基本でしたから…」

「そうだったんですか!?」

それは所々が欠け、苔(こけ)に覆われている小さい丸いお墓であった。  

はっきりとは分からなかったが、確かに『山中光太郎乃墓』と小さい文字で刻まれてあった。            
(これだったのか!?それにしても誰か素人が刻んだみたいだな文字だな)                    
裏の方は苔で見れなかった。                       
「あの〜っ、この苔とか落としても良いですか?」             
「良いでしょう、墓を傷つけるわけではないんですから…」                     
葵は早速丁寧に墓全体の苔を落としていく。                

最後に水を掛けタオルで墓を綺麗に拭いてやる。              
「綺麗になりましたね!?」                       
住職が葵を見て『にっこり』微笑む。                   
葵は裏を覗き込んで没年を確認する事にする。               
『正徳2年 11月没』             
(正徳2年って、何年だ?)                       
よく見ると何か別の文字も刻まれてあった。
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