彼岸と此岸の狭間にて
「そうですか!?それは?」

「これは明治時代の檀家さんの名簿みたいなものですけど、ここに、ほら、『山中辰巳』と載っているだけです」                       
「本当ですね!?ところで、『山中英次』さんの遺骨はどなたが?」             

「5日程前に近所の『互助会』の方が持って来られて、昨日納骨と墓碑名を入れたとこです」

「そうでしたか!?…色々とお世話になりました」                      
「いえ、余りお役に立てませんで…また、何かあればおいで下さい」                 
「ありがとうございます。では、失礼します」                           

明願寺を出、一息ついて携帯を見る。            

(午後4時か!?美紗ちゃんからメールだ)                
『こんにちは〜っ。お元気ですか!?大学はどうですか!?また、デートして下さい(キャッ!!)』              

(可愛いなあ…本気で付き合うか、って、まだ14歳だぞ!)                                
香澄の事が頭を過った。あれ以来、全然連絡を取っていない。

(まあ、あいつはあいつで楽しくやっているのだろう!?お嬢様大学だしな…)                        

葵は青山通りを抜けて原宿の駅に向かって歩いていた。                       
(あの言葉の意味が気に掛かる!紫馬葵は実在した。だが、俺の家の墓には名前がなかった。

じゃ、どこに行った!?死んだならその痕跡があるはずだし…他の人達はちゃんと墓に入っている。

葵はなぜ入ってない?どこかで野垂れ死に!?あるいは死んでいない…まさか、そんな事はあり得ない!!)                      
葵は夢でも見ているのかとふと考えた。                  
(夢か!?夢なら何でもありの世界だから…でも、夢ならどうして俺はここにいる!?)
< 164 / 207 >

この作品をシェア

pagetop