彼岸と此岸の狭間にて
〔2〕         

「その件についてなら、先日も話した通り無理で御座る」

「そこを何とか!拙者の分を長谷部殿に回しても結構なので…」

「金を出すのは拙者ではなく荻原様で御座るから…」               
「なあ、菱山!」                
「うん!?」                  
ここで今まで黙っていた土門が初めて口を開く。              
「お主はこのままで良いのか?」

「何が?」                   
「我らは所詮捨て駒!」             
「何が言いたい!?」              
「どんなに荻原様に仕えてもたかが知れているという事。何故なら、お主もわしも『脱藩組』。決して、仕官は適わぬ!」                 
「だから…」                  
「それに、荻原様の傍若無人の態度には腹に据(す)え兼ねている」                    
「それは拙者も同じだ!」            
「そこで荻原様に御灸を据えてやるというのはどうだ?」                   
「それは痛快だ!例えば、どんな?」                   
今まで話を聞いていた山中には菱山と土門の会話の意味が全く理解できなかった。                     
「お二人とも、拙者には何の事かサッパリ…」               
「そうであった。山中殿にはこの件の絡繰りを教えていなかったで御座る」              
菱山が土門の方を見て言う。                       
「山中殿は我らが仲間!教えても良いでないか、菱山!?」            
「そうだなあ、教える事にするか!?」                             
菱山は荻原の謀反について山中に具(つぶさ)に話す。
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