彼岸と此岸の狭間にて
信濃町にある小料理屋の2階。ここは菱山と土門の馴染みの店であった。               
「お梅、拙者等、大事な話がある故、暫らくは2階に誰も近付けぬよう!」              
「分かりましたよ、菱山の旦那!」                    
お梅は30代後半、小顔で、愛敬のある顔をしている。                                                                               



4畳半程の部屋にむさ苦しい男が三人、顔を突き合わせる。                   
「では、早速、本題に入ろう!」

菱山が土門を促す。               
「拙者が考えているのは…『密告』で御座る」               
「密告!!?」                 
菱山と山中がお互いの顔を見る。                      
「荻原様の謀反を幕府に伝える」

「それでは拙者等にも害が及ぶのでは?」                 
菱山が眉間(みけん)に皺を寄せる。                   
「実は、荻原様に大金が入る事になっている」               
「いか程?」                  
「五千両…」                  
「五千両!!!」                
「山中殿、声が高い!」             
土門が山中をたしなめる。             
「密告とともにそれを頂戴する。但し、狙うはその内の二千両…」

「どういう事だ、土門?」            
「五千両といっても、1回で金が全部動くのではなく、2回に分けられる。1回目は11月1日に『二千両』、2回目が来年の3月に『三千両』…」                   
「なるほど、その一回目の『二千両』を狙うというわけか!?」

「左様!」
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