彼岸と此岸の狭間にて
「計画の内容は?」            
「拙者と菱山で金を奪う。そして、山中殿には『密告』を!」

「拙者が『密告』を!?」            
「事は簡単!」                 
「というと?」                 
「近くの番屋と奉行所に投げ文をするだけ…」               
「しかし……」
               
土門が懐から金を取り出し、渋っている山中の前に置く。               
「ここに20両御座る。先程、お梅から借り受けてきたものだが…これを前金として山中殿に差し上げる」            

「……」                  
「山中殿とて『金子』が入り用の筈。これを長谷部殿に送れば、長谷部殿は助かる上に、山中殿にも大金が入る」                     
「だが、拙者には家族があり、捕まる事にでもなれば…」

「その点はご安心召され。荻原様には山中殿の素性は知らせておらず、拙者と菱山以外、荻原様と顔を合わせた者はおりませぬ」              
「それではお二人の身が?」

「それも心配ご無用!」             
「何故で御座るか?」              
「謀反となれば大した吟味も無く、即刻、切腹か、あるいは荻原様自身が捕まる前に自害するやも知れませぬ!」                 
「はあ…」                   
「それに金を奪うのは大月辺り。拙者等はほとぼりが冷める迄どこかに身を隠す所存。ですから、何も心配する事はないので御座る。さあ、その金を懐に入れられよ!」                    
山中は脳裏に家族の顔、雪乃と葵の顔が浮かんだ。だが、長谷部の胸中を思うと……



右手で金を掴んでいた。
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