彼岸と此岸の狭間にて
山中は深夜人気を気にしながら番屋に向かって歩いていた。懐に土門が用意してくれた書状が2通。               
(ここまで来たらもはや後戻りは出来ぬ。突き進むのみ!)                                                                                 
遠くに蝋燭の明かりが灯っている家が見える。番屋だ!                       
後ろの方も気にしながら番屋に近づく。                  

人影はない。                              
近くに落ちている小石を拾い、書状でそれを包む。             
(今となっては菱山と土門を信じるしかない!)                          
それから『番』の字が書かれている障子戸目がけて小石を投げる。            
「誰だ!」                   
役人が気付いた事を確認して一目散に逃げる。                                                   
闇の中をあてなどなくただ走る、走る。口から涎を撒き散らして…                                                                              

「ふうふう、はあはあ…」                        
どこをどう走ったかなどは覚えていない。肺が潰れ、心臓が止まるかもしれないと思いながら走った。                                      
気付けば見知らぬ家の軒下に倒れ込んでいた。               
(死にそうだ!…明日は江戸中が大騒ぎだろう!)                                                                         


十二分に休憩を取った後、南町奉行所に向かう。
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