彼岸と此岸の狭間にて
深夜の為、南町奉行所の門は閉ざされ門番の姿もなかった。
(誰かに気付いてもらわないと意味がない!)
思案した挙げ句、塀を攀じ登ってそこから中に投げ入れる事にした。
足場の良さそうな所を探し、適当な場所を見つけ、近くに落ちている小石を拾いそれを書状で包む。
刀を塀に立て掛け、鍔(つば)に足を掛けると一気に攀じ登る。
屋敷の中は静かで人の気配がなかった。
よく見ると、渡り廊下に対面している部屋に微かに蝋燭の火が揺れている。
投げ込む場所をそこに決め、懐から小石を取り出すと、そこ目がけて渾身の力で投げ入れる。
『ガツーン!!』
鈍い音がした。部屋までは届かず、廊下の淵に当たってしまった。
(しまった!失敗か!?)
だが、部屋の中に動きがある。暫らくして、障子戸が開き、刀を手にした若い侍が表れる。
(気付いたか!?)
その侍は廊下の前まで出て辺りを『キョロキョロ』見回している。その後で下の庭を見る。
(気付いた!!)
気付いたらしく中庭に下りると白い紙包みを拾い上げた。
それを確認すると山中は静かに刀を下り、早足でその場を立ち去った。