彼岸と此岸の狭間にて
明けて二日の早朝。菱山と土門は大月近辺の街道沿いの林の中に身を潜めていた。                      
「今日、ここを通るのは間違いないんだろうな、土門!」

「案ずるな!何せ、拙者が約束事を交わして来たのだから…」

「手筈は?」                  
「通過したところを一気に後ろから斬り込む。歯向かう者だけを相手にし、逃げる者は追うなよ!」               
「分かっておる」                
「警護の方はどうなっているかな?」                   
「全部で6、7人といった程度だろう!?」                
「7人はちと多すぎないか?」

「その内の2人は店の者。残りは我らと同じ素浪人。腕の程度などたかが知れておる!」               
「ところで、山中の分け前は?」

「一文も…」                  
「やらぬのか!?」               
「当然!」                   
「だが、山中はこの計画も、我らの素性も知っておるのだぞ!」

「大丈夫!仕掛けをしておいた!」                    
「本当か!?お主はこういう事になると知恵が回るのう!」

「お主程ではないがの!はははははっ…」                                                     

それから一時程して大勢の浪人に囲まれた荷車がやって来た。                    
「あれだ!先頭にいるのが『佐衛門』。あやつは拙者の素性を知っているので必ず仕留めなければならない。抜かるなよ!」               
「任せとけって…」                           
二人は林を静かに抜け、荷車に近づいて行く。それから通過したところを一気に後ろから斬り込んでいった。
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