彼岸と此岸の狭間にて
葵が山中の事について知ったのは山中が長屋にほぼ戻って来たのと同時刻頃だった。                    
「兄上、大変な事になっております」                   
「うん、今、弥兵衛さんに聞いた。これからすぐに山中殿の所に行く。子供の事が心配だから綾野も後から来てくれ」                    
「分かりました。お気を付けて…」                                       
仕事帰りの葵には疲れもあったが、出来るだけ早く山中の元へと急いだ。                                                                                                               




目黒と原宿の中間地点まで来た所で、山中と出会う。                        
「山中殿〜っ!」                
「葵殿、良かった。会えなんだらどうしようかと思うておりました」                 
「大変な事になりましたね!?」

「菱山と土門に謀られました」                      

山中は今までの経緯を手短に話す。                    
「そうだったんですか!?で、どうなさるおつもりで?」

「このまま捕まってしまってはあやつらの思う壺。あやつらを捕まえて拙者の身の潔白を明かさせます」             

「ひとりでは危険なのでは?私もお手伝いいたしましょうか!?」

「かたじけない。でも、葵殿にやって頂きたい事が御座る」

「何ですか?」

「番屋に行って幸恵と雪乃の身柄を引き受けて欲しいのです」

「あっ、そうでした」

「では、お頼み申す」

「山中殿、あてはあるのですか?」

「多分、大月!?」
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