彼岸と此岸の狭間にて
「大月ですか!?…でも、そのままでは危険でしょう!?これを…」                 
葵は躊躇せずに自分の刀を差し出す。            

「いやいや、そんな事をしたら葵殿が…」

「どうぞ、お受け取り下さい。私はまだ大丈夫です」

「…かたじけない。本当に、葵殿には何から何までお世話になりっぱなしで…うううっ…」

「山中殿、何も泣かなくても…」

「面目ない。代わりといってはなんですが、拙者の刀を…」           

葵はこうしてあの『日本刀』を受け取る事になる。             
「私も、幸恵殿と雪乃殿の方を済ませて、すぐに大月に向かいますから…」              
「分かり申した」                
「決して無理をなさらず…」                       
葵は山中を見送ると、弥兵衛の協力を仰ぐ為にもう一度目黒に引き返した。                                                                                                              



二日の深夜。                  
「良いな、決して遠くに離れるでないぞ!今回は、謀反が未然に防がれたと、新井様の厚い慈悲のお陰だからな…」                    
「十分承知しております。さあ、みなも礼を言って!」                       
弥兵衛の言葉に従って葵達は深く頭を下げ礼を述べて、番屋を後にする。                                      
「幸恵殿も雪乃殿も大丈夫ですか?」                   
「はいなんとか…弥兵衛様、葵様、なんとお礼を申していいやら」               
「何をおっしゃいます。もはや、私とあなた方は家族も同様ではないですか!?」                         
これを傍らで聞いていた雪乃が葵の胸に飛び込んで泣きじゃくる。
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