彼岸と此岸の狭間にて
〔5〕         

時は少し遡る。                 
山中は提灯片手に街道を急いだ。                     
(今、見失っては一生逃亡の身。それは菱山達にとっても同じ事。拙者が生きている限りはあやつらも枕を高くしては寝れない筈…)                         

大月宿に差し掛かった明け方近く、山中の疲労もピークに達し掛けていた頃、道路脇から突然人影が表れる。                                   
「山中殿、随分待ちましたぞ」

「あっ、菱山!!貴様、よくも…」                       
「あれは土門の考え、って言っても最初からお主は我々の『捨て駒』…」               
「何だと!!」

「世の中には騙す奴と騙される奴の2種類あって、お主は…」

「愚弄する気か!?」              
「事実を言ったまでの事」            
「貴様らに江戸で申し開きをしてもらわねば、拙者は一生逃亡を続けねばならぬ…力付くでも江戸に来てもらう」                     
「それは拙者らとて同じ事…お主に生きていてもらっては安泰な生活が送れぬ。それ故、一生黙っていてもらわぬと…」                   
「何を戯言(たわごと)を…土門はどうした?」              
「土門!?…土門なら、ほら…お主の後ろに」               
「えっ!?」と言って振り向こうとした瞬間、腹部に激痛が走る。                              
「うっ…」                   
土門が背後から山中の腹部を刀で貫いた。               
腹を抱え込むようにして前のめりに倒れ込む。               
「不覚を取ったで御座るな、山中殿」                   
「ども…ん…っ…」               
「お主が死ねば拙者等も安泰!安心して暮らせるわい!」
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