彼岸と此岸の狭間にて
「何を…戯言を…お主等の悪業など…当の昔に……」            
「何!!誰かに話したと申すか!?誰に話した、言え、山中!」

「誰が…お前等なぞに…一生、追っ手の影に…怯えて……ううっ、腹が…焼けるように…熱い…」                
「言わぬも良かろう。だが、我らもただでは死なぬ。貴様の女房、妹、子供ともども道連れにしてやるわ!」                       
「何!?なんと…卑怯な。それだけは…勘弁……」

「なら言え!」                 


「………」

「山中〜〜〜っ!!」                          


(葵殿〜〜っ、許せよ…)            
悔しさの余り山中の両目から『血の涙』が零(こぼ)れ落ちていた。                   
「し…ば………んぐっ!!」                      
山中はここで途絶した。菱山が止(とど)めを刺したのである。                       
「何をする、菱山!」              
「長居は無用。もうそろそろ夜が明ける」                 
「まだ名前を…」                
「『しば』と言っていた。恐らく、あの若造の事だ。以前、あの店で会った…」            
「あ〜っ、あいつか!!」            
「ほら手を貸せ。死体を山に埋めるぞ!」                 
「だが、紫馬の事はどうする?」

「山中同様、そいつも必ず追い掛けて来る。酒でも飲んで待っていれば良いわ」            
「お前も策士じゃのう…」                     

街道から数十メートル離れた林の中に予め穴が掘ってあり、そこに山中の遺体を放り込み、それから土を掛けて埋める。                                          
『山中光太郎  正徳2年11月5日 絶命 享年38歳』
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