彼岸と此岸の狭間にて
美優は久しぶりに子供を連れて里帰りしていた。              
「お母さん、雨が降って来たわよ!!」                  
「さっき、洗濯物は取り込んだから大丈夫…美優、カーテンを閉めて…」               

美佐枝は3歳になる孫と遊んでいた。                    
「葵は将来、何になるのかなあ〜?」                   
「パイロット…」                
「パイロットでしゅか…!?凄いでしゅね…」                           

時は2036年11月の夕刻。                      
美優が部屋のカーテンを閉め歩いて台所に来て、何気なくそこの小窓から外を覗く。                      
(あれっ、誰かいる!?誰かしら、こんな時間に気持ち悪い!!)                  
家の前に顔は良く見えないが背の高い男が傘もささずに中の様子を窺う素振りをしながら立っていた。                        
「お母さん、お母さん!!」

「何よ!?」                  
「家の前に誰か立ってるよ!!」

「嘘でしょう!?」               
「本当よ!ちょっと見てよ」                       
美佐枝は孫の葵を抱いて台所の小窓に近付き、外を見る。                       

「何言ってるのよ!誰もいないじゃない!」                
「えっ!?」                  
半信半疑で見てみる。                      
「あっ、本当だ。いない」            
「あんたのお母さんは本当におばかちゃんで困っちゃいますね」                   
美佐枝はそう言って葵を連れてリビングに戻って行く。            
(目の錯覚だったのかしら、確かにいたと思ったんだけど…)
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