彼岸と此岸の狭間にて
「今日もお父さん、遅いの?」

「今年で定年退職だから、なんやかんやと忙しいみたい」          

夕食後、美優は台所で洗い物を、美佐枝は葵を寝かし付けていた。            
「そうなんだ!?退職後は?」

「高知県にある私立大学の学長!」

「えーっ、本当!?知らなかった…母さん、どうするの?」

「付いて行くわよ。何でも、養子にしたい子がいるんだって、高知に…」

「養子!?お母さん、賛成したの?」

「まだ。だって、会ってないもの…」

「私はやだなあ、赤の他人が家の中に入るなんて…」            
「なんか葵そっくりなんだってその子!」

「いくら容姿が似てたってお兄ちゃんの替わりにはならないよ!」

「そのくらい私だって知ってるわよ!」                                                      



『ピンポーン…』                
「はーいっ…」

美優がドアホーンで応答する。

『私だ!お客さんがいる…』                      



「お母さん、お父さん帰って来たよ」

「あらっ、今日は早いわね!?」

「お客さんがいるんだって!?」                     


玄関のドアの開く音がして父親と客が中に入って来る。              
「さあ、入りなさい」              
そう言われて入って来たのは……




20歳になった葵だった。

「よう、久しぶり!」

葵は美佐枝と美優を真っすぐに見据えている。

美佐枝と美優には何が起きているのか理解できない。            
「何、これ、どういう事!?」 

「何故、死んだ筈のお兄ちゃんがここにいるの?」

「本物…??」         
「あはははっ、本物に決まってるじゃないか。母さん、美優、ただ今!」
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