彼岸と此岸の狭間にて
「あなた、本当なの!?」

公彦は泣いているようだった。


「美優、葵よ!葵が本当に帰って来た!!」

「本当に、本当に、お兄ちゃん!?」

「本当に、俺だよ、帰りが少し遅れたけどさ…」

「葵〜〜〜〜っ!!!うおお〜ん、うお〜ん…!」             
「え〜ん、お兄ちゃ〜んだあ〜っ!!!本当に、お兄ちゃんだあ〜っ……」            
葵と美佐枝、美優は『ヒッシ』と抱き合う。                
「母さん、美優、悲しい思いをさせたね、ごめんよ」            


歓喜の泣き声は暫らくの間、止む事はなかった。                                              


止まっていた時間が今、再び動き出す。                                                                                                                    





夢を見た。                                                       
釣り竿を肩に担いだ着物姿の男が自分の前を歩いている。                                                                  
やがて、その男の周りにひとり、二人、三人と人数が増えていく。                              
みんな見たことがある顔だ!                                   
時折笑い声が聞こえて来る。先程の男も豪快に笑っている。                     

足場は雲の上にいるみたいで『ふわふわ』している。                        
男は急に立ち止まって振り返る。そして、言う。                


「葵、所詮、夢は夢……」                



俺の前を歩いていた男は俺自身だった。
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