彼岸と此岸の狭間にて
菱山は中腰を保ったまま荻原の下へ歩み寄る。               
「首尾の方はどうだ?」             
「はっ、着々と進行はしております、が…」                
「が、何じゃ?」                
「そろそろ具体的な指示をお与えになりませぬと、中には怪しむ者も出て参りました…」               
「左様か!?あっ、お主に紹介しておこう。こちら『松平輝貞』殿の家臣の『大井守清』殿じゃ」                  
荻原の左側に20代後半の若い侍が座っていた。              
「お初にお目にかかる。拙者、松平輝貞が家臣、大井守清と申す」

「菱山幸乃新で御座る」

「大井殿には『新井白石』と『間部詮房(まなべあきふさ)』の動向を調べてもらっておる。

綱吉公亡き後、我らを迫害したあやつらの仕打ちは絶対に許せぬ。あやつらには『死』を以て償ってもらう!!」                   
「それで荻原様、先程の件は如何いたしましょうか?」

「うむ、そうであったな。新井と間部を暗殺するにしろ『わし』らが捕縛されては本も子もないからのう…さて、どうしたものか!?」                      
「新井と間部の動向は?」            
菱山の問いに大井が答える。             
「それが警戒が厳重でなかなか隙がないので御座る。二人をほぼ同時に暗殺しなければ意味が御座りませぬ。ところが新井は城外での『御意見番』故、登城致しませぬ。それで計画を綿密に練らなければならぬのです」                      
「では、具体的な日時は未だ決定していないのでございますか?」                  
荻原が苦みばしった顔をする。

「駒込の『柳沢吉保』公を擁立しようと画策中なのだが、『吉保』公が首を縦に振らぬのだ!」
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