彼岸と此岸の狭間にて
「紫馬様はこういうお仕事は長いのですか?」
「まだ二月(ふたつき)程です」
「では、今回のような仕事は?」
「初めてです」
「じゃあ、腕の方がお立ちになるんでしょうね」
「それ程でも…」
弥兵衛の事件以来、暇があれば刀を振ってはいたが、未だ刀の重さには慣れた程度である。
「以前は何をなさっていたんですか?」
(高校生で〜す、と言ったて分からないだろうな!?)
葵はそんな下らない事を考えて一人『ニヤニヤ』としていた。
「どうかなさいましたか?」
「いや、別に……ある旗本に仕えておりましたが、その方が病死したのと給金が安かったので浪人の道を選びました」
「そうだったんですか!?紫馬様は大分お若くお見えになりますが、お幾つで?」
(本当は18歳だけど…)
「28歳です」
「えーっ、28歳!!私はてっきり10代かと思いました」
(その通り!!)
「よく若く見られるんですよ」
「人は外見では分からないと言うが…」
茂助はその後の言葉を自分に言い聞かせるようにして噛み殺してしまった。
「番頭さ〜ん!!」
20メートル程先をお伊勢と伴に行く勘吉がこちらを振り返って手を振っている。
「どうした、勘吉!?」
「町が見えます〜っ!」
「紫馬様、どうやら大月に着いたみたいですね!?急ぎましょうか?」
「はい」