彼岸と此岸の狭間にて
〔3〕         

山中は今、柳沢吉保の警護にあたるため駒込に来ていた。                                  


話は四日前に遡る。               
仕事の依頼を断りに『古木屋』という茶屋を訪ねたら、そこに菱山と土門が待っていた。                                
「これはこれは山中殿、遠い所遥々(はるばる)とかたじけない」                  
菱山が立って山中を迎え入れる。菱山達の他には客はいなかった。                              
「昨日は拙者の留守中にお訪ね頂いたそうで面目ない」

「何を仰られるか、拙者と山中殿の仲では御座らぬか!?それでここでは詳しい話も出来ませぬ故、二階の方へ…」                                
山中は菱山と土門の後ろから二階へと上がる。                           

二階の通された部屋はここの主人の個室のようであった。土門が障子戸を全部締め切る。                                
「まあ、その辺に適当に…」                       
山中は菱山の勧めるままに部屋の真ん中辺りに腰を下ろし、二人と向き合う。                         
「菱山殿、大変申し上げにくい事で御座るが……実は、今回の仕事をお断わりしようかと思いまして…」               
菱山達は予想していたのか、別段驚いた様子も見せない。                      
「それは構いませぬが、何故か理由をお聞かせ願えぬか?」

「…弱い人間とお笑い下さって結構!拙者、何もせずにただじっと待つ事に限界を感じまして…ここに頂戴した1両も持参しました…」                       
「1両?」                   
菱山と土門が顔を見合わせる。
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