彼岸と此岸の狭間にて
「えっ、確かに1両だったはず!!」                   
菱山は懐から紙切れを1枚取り出し、山中に手渡す。            
「これは?」                  
「仕事の依頼の証文です…ここに山中殿のお名前がちゃんとあるで御座ろう!?」                       
山中にはこの証文には見覚えがあった。                  
「確かにこれは拙者自身が書いた物で御座るが…」             
「一番最後の所を御覧なさい!」                     
菱山がその箇所を指差す。            


「あっ!!」                  
そこには以下のような文言が記されてあった。               
『一、途中で仕事を断る場合、貸し出した金子の倍返しを以て終了とする』              
山中の証文を持つ手が憤りで『ワナワナ』と震えている。                      
「貸し出したとは?頂戴したのでは御座らぬか?」             
「拙者はお金を差し出しただけで『差し上げる』とは一言も言っていない」

「だが、給金は三月(みつき)で30両と?」

「仮にそうだとしてもそれは働いてからの話!」

「最後の下りは最初はなかった筈!」

「何なら番屋にでも駆け込みますか?でも、それを証明するのは山中殿、貴公ですぞ!」

(謀られた!)

「証
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