彼岸と此岸の狭間にて
「名前は聞いた事が御座ろう!?」                    
「勿論ですとも!吉保公の下、幕府の財源を扱った方でございます」                 
「綱吉公がお亡くなりになられた後、家宣公に替わられ『新井白石』と『間部詮房』に追放されたお二人であるが、六代将軍家宣公亡き後、柳沢様を擁立して復職を画策している。」                    
「えっ、家宣公を暗殺するのですか?」                  
菱山も土門も大笑い。              
「違う、違う!そんな事をしたら逆に我々の首が翔ぶでは御座らぬか!?」               
「では?」                   
「今、幕府の財源は綱吉公とその生母の『桂昌院』様の乱費によって『火の車』。その建て直しが急務で、そのお役に立ちたいと正式な政略と正当な手続きを踏んでの復職を目指しているので御座る」

「成る程!」                   
「そこで柳沢様と荻原様達の『御命』を政敵から守る必要があるので御座るよ」              
「そのために拙者が柳沢様を警護する!?」                
「左様!拙者と土門殿は荻原様達の警護にあたります」              
「そういう事でしたら是非とも!」                    
「柳沢様達の復職の暁には我々もそれなりの褒美を頂けるそうで…」                 
「その話を聞いたからには褒美などは二の次で御座る」                                   
日本人は兎に角、『大義名分』に弱い。これは、儒教の教えに基づくものであるが、現代の日本にも残る『大義名分』的思考は江戸時代の儒教の広まりによって土台を作られたと言われている。だからその時代に生きている山中が燃えないわけがない。                             


こうして山中は現在、三勤一休の割合で柳沢吉保を真面目に警護しているのである。騙されているとも知らずに…
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