彼岸と此岸の狭間にて
大月宿を出て三日が経った。目的地の甲府はもう目と鼻の先である。                 
後半は大分旅にも慣れ、歩く事自体にはそれ程苦痛は感じなくはなってきていた。                       

「紫馬様、間もなく甲府でございます。後、山を3つ程越えればですが…」

「そうですか!?」               
「慣れましたかな?」              
「さすがにこれだけ歩いていると…最初の頃は、足に豆が出来たり、指の皮が剥けたりで大変でしたが…」            

「あはははっ、始めの頃は誰でもそうですよ」               

ここまでは何事もなく無事に過ごせて来た事に安堵する葵であった。                             
「紫馬様、御結婚は?」             
「まだです。将来を約束した人はおりますが…」              
「それはよい事で…」              
「茂助殿は?」                 
「私は婚期を逸してしまいました。仕事、仕事に追われて…二年後には『暖簾』を分けて頂いて分家する予定なんですが、こんな爺いに嫁の来てもありますまい!?」

「大丈夫ですって…」              
言葉を続けようとした時、突然、前方から勘吉の泣き声が…         
「お止め下さい」とお伊勢の言葉が続く。                             
見れば素浪人3人とお伊勢達が揉(も)めている。                          

「紫馬様!」                  
「うん」と頷いたものの足が全く動かない。斬り合いを想定してしまった。                          
早速駆け付ける茂助の後を勇気を振り絞って何とか追い掛ける。
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