彼岸と此岸の狭間にて
「どうかなさいましたか?これらは私の連れの者でございます」

「そちがこの者の主人か?」                       
3人のうちの小柄で細面(ほそおもて)の浪人が茂助を睨(にら)み付ける。             
「まあ、そのようなものでございますが、子細の方は?」

「この小僧がいきなり後ろからぶつかって来て、拙者の刀を足蹴(あしげ)にしたのだ!」            
「おいら、ちゃんと謝ったやい!」                    
お伊勢に抱き抱えられるようにしていた勘吉が涙ながらに訴える。                 
「刀は武士の魂。足蹴にするとはもっての外!」              
「勘吉、本当のところはどうなんだい?」                 
茂助は勘吉に宥(なだ)めるような口調で尋ねる。             
「トンボに気をとられていてお侍さん達に気付かなかったんです。気付いた時にはそのお侍さんとぶつかってしまって…その弾みで少し刀に触れてしまったのです」                      
茂助は事の子細を知ると毅然とした態度でその侍の方を見る。                    
「まだ年端のいかぬ者の所作です。ご立腹は重々承知で御座いますが、何卒(なにとぞ)ここはお許し頂けないでしょうか!?」              
「ならぬ!!」                 
「ではどうしたいので?」            
「そこに小僧を出せ!手打ちにしてくれるは!」

「そこを何とか…」               
「ダメだ、許せぬ!」              
この言葉を聞いて茂助の顔色が変わる。                              
「おうおう、この素浪人!こちとら江戸は神田の生まれよ。気が短けぇんだ。斬り捨てる。上等じゃねぇか、この野郎!やれるもんならやってみやがれ!!」             
そう言って往来の真ん中に大の字に寝転んでしまった。
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