彼岸と此岸の狭間にて
葵はどうしていいのか分からずただ『オロオロ』するばかり。                    
(助けに行くのか!?でも、相手は3人だし…斬りあいになったら勝ち目はないしなあ)                                
茂助の啖呵を聞いたその素浪人は烈火の如く怒りだして刀に手を掛ける。               
だが、往来ということが幸いした。いつの間にか多くの通行人が足を止め、この事態を見守っていた。              

侍が刀に手を掛けた時、どこからともなく、「無抵抗の人間を斬るのかい?」「子供の間違いを斬り捨てるとは情けない!」などの野次が飛ぶ。                   

多勢に無勢。戸惑う浪人達。自分達の旗色が悪い事を感じ取る。それから捨て台詞を残して江戸の方へ急ぎ足で歩いて行ってしまった。                              
茂助が立ち上がると勘吉とお伊勢が駆け寄って抱き付く。                      
『パチパチパチ……』              
通行人の中から拍手と歓声が沸き起こる。                 
『偉いぞーっ、よくやったあ!!』『それでこそ主人の鏡!』『イヨーッ、日本一!』…                   
茂助は頭を掻きながら通行人の方に向かってお辞儀をしまくっていた。                          

「立派でしたよ、茂助殿!」

「いやあ、お恥ずかしいところをお見せして…気が短いのでどうしようもないんですよ」                    
「私はどうしていいかわからず、ただ『オロオロ』するばかり…面目ない」              
「はははっ、こういった事は経験が物を言うんですよ!」                
「と言うと?」                 
「私も無茶をしていた時代がありましたから…それが婚期を逃した原因とも言えるんですけどね…ははははっ…」                      
茂助は笑って勘吉の頭を『グリグリ』と撫でていた。
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