【短編集】翳りゆく部屋 ~サビシガリヤノオンナタチ~
“ガチャガチャ”


有子の目に溜まった涙が、零れ落ちようとした瞬間、玄関の鍵を開ける音がした。


ゆっくりと近付いて来る足音に振り返ると……


そこには、愛しい徹哉の顔があった。



「やっぱり………、
有子だったのか………」


5年間、ずっと優しく囁いてくれた、徹哉の声。


目を瞑っていても、有子は聞き分ける事が出来る。


「徹哉………、
会いたかったョ………」


有子は、子供の様に泣きながら、徹哉の胸へと飛び込んだ。





だけど徹哉は、ゆっくりだが鋭く、両手で有子の肩を掴み、自分から引き離した。





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