【短編集】翳りゆく部屋 ~サビシガリヤノオンナタチ~
「野梨子、前を向いて歩きなよ。
自信持って、さっ」


私の目から、涙が零れた。





私が落ち着くのを待って、シュウは話し始めた。


「オレ、確かに仕事だけど、野梨子を客にする気はなかったよっ」

「…じゃあ、どうして……?」

「野梨子はずっと下を向いて歩いてた。
こんなに、天気が良いのにさっ」


そう言ってシュウは、私の頬を伝う涙を、手で拭った。


「野梨子、気を付けて帰るんだよ」

「シュウは?」

「オレ?
少し、寝てくよ」

「シュウ………、
貴方は…いったい……」





「野梨子にだけ見える、幻だよ」





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