■短編■-茜空-
『正直になって…つらいことだってありますよ…』
下を向いてぎゅっとエプロンを握った。
「…年を重ねていくうちにどんどん正直になることが難しくなるんだ…変なプライドとかが邪魔したりして…だからあの時正直になっていれば…って後悔するんだよ。俺も…いっぱい後悔した。」
目を伏せてどこか懐かしそうな目でマスターは言う。
昔を思い出しているのだろうか…
マスターを見てぼんやり考える私にマスターは続ける。
「正直になってつらい思いや、苦しい思いをするかもしれない…だけど、その思いは絶対自分の人生の力になるんだよ。何も行動しないより、よっぽど自分のためになってるんだ。人間は後悔する生き物…だけどそれに怯えて何にも行動しなかったら、嬉しいこと、悲しいこと、つらいこと、楽しいことなんにも感じることが出来ないだろ?地獄を見なきゃ天国は分からない。楓ちゃんには俺みたいに後悔してほしくないんだ」
マスターは私の目をまっすぐ見て言った。
自分の頬に涙が伝う。
私…先輩に自分の強い気持ち…なにも伝えてないよ…
大人になって…今を振り返った時…私は後悔しているのかな…?