ななころび
昨年、僕の元恋人が、僕の知らない間に、僕の子どもを殺した。元恋人には、僕の子どもを産む覚悟がまだなかったのだ。
僕達は、本当に良い友達で、そのことがあるまでは、お互いに何かを満たし合っていた。そんなことが、ずっと続くと思っていた。
30歳の女の子は、疲れた様子で泣いていた。僕は、彼女に不要な言葉をぶつけてしまった。彼女は、悪意の他、何も受け取らないことだろう。



僕は、僕自身が、わりと最近まで子どもだったことを話さなかった。話す権利も無かったし、必要も無かった。
彼女達に必要なものは、本当は、カウンセラーではなくて、宗教とか何とか。そんなものかもしれない。セックスは子作りなのだ。

僕の彼女は、「人間を作る」ということに恐れをなして、僕の元を去った。全てを捨てて逃げ出した。



でも、それじゃ、僕とななちゃんを支配した、僕と彼女を支配したものは、いったい何だったんだろう。あれはあれで、間違いない何かだったはずなのだ。




「初めての人だったんです。」と、女の子が言った。
「初恋だったんです」


 元カノのことがあって、心の一部が凍りついてしまっていたのだと思う。けれども、僕が傷ついたかといえば、それもちょっと違う。僕は、逃げ出した元カノに、何の興味も湧かなくなってしまった。そのうえ、よくわからないけれど、突然、そこにななちゃんが、絶対的な官能の対象としてわいてでたのだ。

 ああ、わかったぞ、このクライアントは、元カノに似ている。愛だの恋だの言ってるが、なんかちがう。何が違うのかは考えたくない。

 
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