ななころび
第二章 ズレ
夜のコールセンターにほとんど電話は無かった。始めた頃は、本当に良いアルバイトだと思っていたし、今でも居心地悪くは思わない。
でも、それでも、辞めると切り出すのが自分のキャラクターだと思った。
ここは、電話代行会社と言って、様々な中小企業に依頼されて、企業宛ての電話を受ける仕事をしている。
一番の大口はテレビショッピングで、つい最近までは景気良くやっていた。
ところが、、先週、社長がエロビデオ屋の受注電話を引き受けてきたため、事務所は騒然となった。不景気だからしょうがないんだそうだ。
上品な対応を心がけてきた。女性らしい優しい対応を心がけてきた。AV嬢と間違われるようなことがあったら、いったいどう対応すれば良いのか。。
みんな電話を嫌がった。
先月末で契約が切れた電話が鳴り続けている。何度も。何度も。
「なな、あんた、彼氏と長いよね。イブとクリスマス入れる?」
ひかりに声をかけられた。ひかりは、先月彼氏にふられたところ。
(別に、長いから、うまくいってるわけじゃないんだけどナ)
契約が切れた電話が鳴りつずけている。
「いいよ。一緒にバイトしよ。」そのほうが良いかも。
契約が切れた電話は、まだ鳴っている。
私は、「このうるさいのさ、「お間違えです」って、出ちゃったらどうだろ。かけてこなくなるんじゃないの??」と、ひかりに言った。本当は、絶対やっちゃいけないことだ。
電話は、かなりしつこい。他の回線が同じ電話機につながっているため、線をぬくこともできない。
ひかりが、おもむろに電話をとった。「はい、」「・・・」「ちがいます」「そんな、会社とかじゃありません」「お間違えです」「私のうちの電話です」
ところが、その時に限って、今の今まで一切鳴らなかった、他の電話が鳴った。すぐに電話をとる。
「はい、00でございます」
「私、社長の中田の妻です。」
どこか緊張した声が聞こえた。
「私、離婚訴訟中なんです。慰謝料の請求もしてるんですけれど、その、事務所には何人くらいOLさんがお勤めなんでしょうか。」
さて、おかしな夜だ。マニュアルにないことがたて続けに起こってしまった。
ひかりのほうはひかりのほうで、こちらをみて助けを求めている。どうも、こちらの着信音が電話の相手に聞こえてしまったらしく、一般家庭を装うつもりが、ウソがばれてしまったらしい。
「ちょっと、私どもでは分かりかねますが・・・」私は声をつまらせた。
「分からないってことはないでしょう。あなたがいる、その事務所の従業員がどれくらいか聞いてるのよ???中田は、お金がないお金がないって言いながら、一体、何人女の子雇ってるのかしらね。そこにいる人のことが分からないっておかしいでしょ」
「申し訳ありません・・・」謝るのが正しいかどうかすら分からない。
向こうでは、ひかりが、何やらオペレーターらしくないひめいをあげて、電話をたたききるのが見えた。(ああ、ひかり、やっちゃったよお)
私の電話にも、沈黙が続いた。
長い沈黙。
長い長い沈黙の後、今度は、また、予想外の展開が待っていた。
「あの、、あなたが答えてはいけない立場なら、「はい」か「いいえ」だけでもよいので教えてもらえませんか??」
「、、もしかして、そこは、中田の事務所ではないですか?」
(・・・)
「はい」
「中田はそこにいますか??」
(・・・)
「いいえ」
「電話だけ、事務所じゃないところで受け付けていますか??」
「はい!!」
「・・・・・・・ありがとう」
「・・・・・ありがとう」
「はい」
「失礼します」
「お疲れ様です。。」
契約の切れた電話が、また鳴りはじめた。
こちらの電話も、ようやく切れた。私は、ひかりのほうに、
顔を上げた。
「お疲れ。。」
本当にちょっと疲れた。
でも、それでも、辞めると切り出すのが自分のキャラクターだと思った。
ここは、電話代行会社と言って、様々な中小企業に依頼されて、企業宛ての電話を受ける仕事をしている。
一番の大口はテレビショッピングで、つい最近までは景気良くやっていた。
ところが、、先週、社長がエロビデオ屋の受注電話を引き受けてきたため、事務所は騒然となった。不景気だからしょうがないんだそうだ。
上品な対応を心がけてきた。女性らしい優しい対応を心がけてきた。AV嬢と間違われるようなことがあったら、いったいどう対応すれば良いのか。。
みんな電話を嫌がった。
先月末で契約が切れた電話が鳴り続けている。何度も。何度も。
「なな、あんた、彼氏と長いよね。イブとクリスマス入れる?」
ひかりに声をかけられた。ひかりは、先月彼氏にふられたところ。
(別に、長いから、うまくいってるわけじゃないんだけどナ)
契約が切れた電話が鳴りつずけている。
「いいよ。一緒にバイトしよ。」そのほうが良いかも。
契約が切れた電話は、まだ鳴っている。
私は、「このうるさいのさ、「お間違えです」って、出ちゃったらどうだろ。かけてこなくなるんじゃないの??」と、ひかりに言った。本当は、絶対やっちゃいけないことだ。
電話は、かなりしつこい。他の回線が同じ電話機につながっているため、線をぬくこともできない。
ひかりが、おもむろに電話をとった。「はい、」「・・・」「ちがいます」「そんな、会社とかじゃありません」「お間違えです」「私のうちの電話です」
ところが、その時に限って、今の今まで一切鳴らなかった、他の電話が鳴った。すぐに電話をとる。
「はい、00でございます」
「私、社長の中田の妻です。」
どこか緊張した声が聞こえた。
「私、離婚訴訟中なんです。慰謝料の請求もしてるんですけれど、その、事務所には何人くらいOLさんがお勤めなんでしょうか。」
さて、おかしな夜だ。マニュアルにないことがたて続けに起こってしまった。
ひかりのほうはひかりのほうで、こちらをみて助けを求めている。どうも、こちらの着信音が電話の相手に聞こえてしまったらしく、一般家庭を装うつもりが、ウソがばれてしまったらしい。
「ちょっと、私どもでは分かりかねますが・・・」私は声をつまらせた。
「分からないってことはないでしょう。あなたがいる、その事務所の従業員がどれくらいか聞いてるのよ???中田は、お金がないお金がないって言いながら、一体、何人女の子雇ってるのかしらね。そこにいる人のことが分からないっておかしいでしょ」
「申し訳ありません・・・」謝るのが正しいかどうかすら分からない。
向こうでは、ひかりが、何やらオペレーターらしくないひめいをあげて、電話をたたききるのが見えた。(ああ、ひかり、やっちゃったよお)
私の電話にも、沈黙が続いた。
長い沈黙。
長い長い沈黙の後、今度は、また、予想外の展開が待っていた。
「あの、、あなたが答えてはいけない立場なら、「はい」か「いいえ」だけでもよいので教えてもらえませんか??」
「、、もしかして、そこは、中田の事務所ではないですか?」
(・・・)
「はい」
「中田はそこにいますか??」
(・・・)
「いいえ」
「電話だけ、事務所じゃないところで受け付けていますか??」
「はい!!」
「・・・・・・・ありがとう」
「・・・・・ありがとう」
「はい」
「失礼します」
「お疲れ様です。。」
契約の切れた電話が、また鳴りはじめた。
こちらの電話も、ようやく切れた。私は、ひかりのほうに、
顔を上げた。
「お疲れ。。」
本当にちょっと疲れた。