黒ユリのタンゴ
その雪の中に、背をむけた一人の少女が佇んでいた。
顔を見ようと近付いたとき、耳元で誰かの声がした。


−戯れだったのに

−本気にしちゃったんだ


え?誰?


ごめんね


語りかけてくるのは、一体誰だろうか。
あの人なのか、目の前の少女なのか。


その瞬間、ごおっ、と吹雪になる。
その少女の顔は雪にかき消されて見えない。

口許が、ゆっくりと持ち上がったのは、気のせいだろうか。


ああ、これは何だったっけ。


・・・そうだ、あの本だ。
< 39 / 205 >

この作品をシェア

pagetop