黒ユリのタンゴ
体育教官室への廊下を歩きながら、神田君はこう説明してくれた。

「確かに、夢って自分の深層心理が出てくるものらしいよ。専門家じゃないから、はっきりとはいえないけどね」

「深層心理、ねぇ・・・」

ということは、ココロのどこかで私は試されたい、などと願っているのだろうか!?
深草少将になりたい、と!?


「そうじゃないなら、単純に自分の『知っていること』で物語を作っちゃった、ってことかなあ」

何かのクセなのだろうか。また眼鏡を触りながら、神田君が聞いてきた。
「ほら、タイムマシンや宇宙旅行の夢って、見たことない?僕もよく見ちゃうんだけど」

「あるある」


そこから神田君は、こう説明してくれた。
空想上のものでも現実にあるものでも構わないけど、自分が『知っている』範囲のことしか夢に出てこない。

例えば「タイムマシン=過去に戻れる機械」という『知っていること』は夢に出てくるが、その製造法を夢で知ることは絶対にありえない。それは宇宙旅行でも、ファンタジーでも同じ。


「結局知ってること以上のことは、夢に出てこない。
本に載っていたその話が印象的だったから、あたかも自分が主人公になったかのように夢に見ただけなんじゃないかなあ。」


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