きみが見た光
部屋の鍵を開けた奈緒は、俺を玄関に招き入れる。

こざっぱりと片付けられた玄関からのぞく室内は、女性の一人暮らしにしては、とてもシンプルな内装だった。

そして、薄暗がりの中、部屋の中で何かのランプがぼんやりと赤く点滅しているのに気付く。

(留守電か…?)

怪しく光るその光に気を取られていると、シャツの裾を引っ張られる。

「ドアポストに何か入ってるか見てくれるかな」

不安を隠せない顔をした奈緒が小さな声でドアを指差す。

俺は黙って腰を屈めて、ドアポストを開けた。

「何もねぇよ」

「…そう」

異常が無いことを了解したにもかかわらず、奈緒の表情は強張ったままだった。

彼女は靴を脱ぎ、スリッパを出す。

「あまり片付いてないけど…」

落ち着きの無い視線を送りながらつぶやく奈緒。俺はそんな彼女の後に靴を脱ぎ、差し出されたスリッパを履いて部屋に上がる。

彼女は照明のスイッチを入れて、明かりを付ける。やはり、赤点滅は、留守電が入っているという知らせだった。

その時、急に鳴り響く電話のベルで、二人の背筋をビクつかせる。

(…どこかで見てるのか? タイミングが…)

目を大きく見開いて固唾を飲み込む奈緒。俺は平然を装い、受話器を手に取り、耳に当てた。

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