きみが見た光
「もしもーし」

おどけた口調で相手に話し掛ける。しかし、反応がない。

俺は、奈緒に目配せした。奈緒は眉をひそめながら小さくうなずく。

『………』

相手は、こちらを探るように黙っている。

「いつもと相手が違うから、焦ってんの?」

挑発するように俺はけしかける。

それでも相手は無言だった。

「用がないなら切るぜ」

俺が受話器を置こうと耳から離そうとしたとき、相手の声を聞いた。

『お前は、榊真白だな』

「何で俺の名前知ってるんだよ、この野郎」

『俺が彼女のことで知らないことはない』

ヘリウムガスでも吸ってるのか、声だけでは男なのか女なのか判断はできなかった。俺は眉をひそめながら、相手を探る。

「どっかで見てやがるだろ、コソコソしてないで姿を現わせ」

『俺はいつでも彼女のそばにいるんだ。彼女に会えない時間でも、留守電の声を聞いてな…』

気持ち悪ぃーなー

「警察に通報したら、逆探知ですぐにお縄だな」

『コドモは早く帰った方がいい。これからはオトナの時間だよ』

ストーカーは、気味の悪い笑い声でそう告げてから、電話を切ったのだ。



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