きみが見た光
「お、おい、彩夏…?」

風のように走り去る彼女の背中を、俺は手を伸ばして見つめることしかできず…

「何だよ真白、何やってんのっ !早く追い掛けろよっ」

後ろからものすごい剣幕でまくしたてる圭に後押しされる形で、俺は彩夏の後を追って廊下に出た。

「榊」

そんな俺の肩を誰かが叩く。

「今、忙し…」

そう言いながら振り向くと、そこにいたのは

「野崎…」

野球部らしく頭を丸め、俺とは比べものにならないほどの筋肉質の体が、薄いシャツの下から浮き上がっていた。

「広瀬は俺の気持ちに気付いたんだ。諦めろ」

「はぁ? あいつはお前がしつこいから…」

野崎の目は、何かを握っているような自信が満ちていた。

何か、弱みでも握られてるのか?

俺は目を細め、野崎の動向を見る。

「お前のためなんだぜ? 大丈夫。俺がちゃんと幸せにするからよ」

野崎はあざ笑いながら、右手を上げて俺を追い越して行った。

俺のため…?

俺はしばらく、野崎の無駄にでかい背中を眺めていた。



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