きみが見た光
圭と彩夏は体育。

俺は美術。

それぞれが別の教室に向かい、それぞれの授業を受ける。

目の前にあるカゴに入った果物を机で囲み、皆がそれを見て絵を描く授業。

俺は水彩画用の筆を握り、鉛筆で薄く下書きした画用紙に色を付けていた。

「何か、榊のは暗ーい色遣いだな」

席の後ろから、美術の牧田がしがれた声で口を出す。俺は目だけそちらを見て、構わず手は動かしていた。

すると、同じ教室にいる他の女たちが、ひそひそと隣の奴と話しはじめたのだ。

「榊はさっき、彩夏にフラれたばっかだもんね」

そんな声が嫌でも耳を掠めていく。

俺は話をしてる奴にガンを飛ばし、また画用紙を見つめた。

牧田は笑いながら横に移動していった。

(この間クラスで宣言して、してやったりの顔してたくせに…)

彩夏の口から理由を聞き出さないと。野崎は一体何を握ってるんだ…?

眉間にシワではなく、深い溝を刻み、俺は絵の具の付いた筆を動かしていた。



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