きみが見た光
「…とにかく、受験に集中しなさいよ。人を殴ってる場合じゃないわよ」

母親にそう言われると、俺は席を立ちリビングを出た。そしてけだるい足を上げて、自分の部屋に続く階段を上る。

すっかりと日が落ち、電気の付いていない部屋には、カーテンの隙間から薄く白い光が射していた。

そこに手を差し込み、少しだけ開けてそこから外をのぞいてみた。

その藍の空には、数えるほどの星が輝いていた。そのほのかな光に誘われるように窓を開けると、少しだけひんやりした風が頬を掠めた。

"頭を冷やせ"

そう聞こえて来るような気がしていた。

(兄貴…、あんたの彼女が大変だよ)

夜空に映る兄貴の顔を仰ぎながら、心の中でぽつりとつぶやいた。

当たり前だが、何の返事もない。その替わりに、また柔らかい春の風が俺の髪を優しく撫でる。まるで、ガキのころに優しい目をした兄貴が頭を撫でてくれくれたように……

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