きみが見た光
「健の代わりに私を心配してくれてるだけなら、本当にもう気にしないで…」

同じタイミングで、奈緒が言った。

「…っ…」

俺はそう口にした奈緒の顔を真顔で見つめていた。

あぁ、そうか…
この女は昔から…っ

鈍感で、
天然で…

「…本当に気付いてないのかよ」

俺は、襲われた脱力感をどう扱ったらいいものかと、深い溜息を吐いた。

「え?」

俺の言ったことを理解できず、眉根を寄せて聞き返してくるこの女に、俺は段々イラーっとしてくる。

「何でもねぇよ」

俺はまたくるりと向きを変えて、歩きだした。

当たり前だ。
俺は憎んでいた。
許せなかった。

始業式で久々にあの顔を見た時、怒りで震えたくらいなんだから。

奈緒が、俺の気持ちに気付くわけがないよな

「真白くん…?」

俺の様子に奈緒は不審がっている。

例え俺が兄貴の代わりでも、致し方ない。そんなことは、最初から解っていたはずだ。

そう思った瞬間だった。

< 125 / 161 >

この作品をシェア

pagetop