きみが見た光
「奈緒さん」

(…!)

俺と奈緒は、二人して声のする方に振り返る。

「あ…」

「どうも」

学校では決して見せない、優しい笑みを浮かべた橘がそこに立っていたのだ。

「…あ、あの、彼はその」

奈緒は焦ったように俺と一緒にいることを弁解しようとしている。

「さっきうちに来たとき、奈緒さん、忘れ物したから、持ってきたんですよ」

しかし、そんな彼女の態度に、なんの疑問も投げ掛ける事もなく、橘の笑顔は変わらなかった。

そんな奴の態度に、俺は顔をしかめながら目の前の二人のやり取りを黙って見ていた。

「わ、忘れ物?」

「えぇ。これ。置きっぱなしでしたよ」

ニッコリと笑う橘は、戸惑う奈緒に後ろに隠していたものをサッと差し出した。

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