きみが見た光
「母ちゃん、お客さん」

リビングのソファで煎餅をかじっていた母親にそう告げると、俺は玄関で待たせている奈緒を手招きした。

「お客さん?」

俺にそう聞き返す母親は、リビングの入口に立った奈緒の姿を見て、呆然としていた。

奈緒は、丁寧に頭を下げる。

「あ、あ、あなた…」

そんな彼女の姿を見て、母親の声は震えていた。

「あなた、今まで…」

母親の目の色が一気に悲しい色に染まっていく――

「今までの仕打ちを許していただこうとは思っていません。ただ、ずっと謝りたくて…」

奈緒がそう言った瞬間、母親は自分の目の前にあった煎餅を彼女に投げ付けたのだ。

「母ちゃん、やめろ!」

俺は間に入り、母親を止めに入る。しかし、あの時に抱いていた感情が今、母親を動かしていた。

「どうしてもっと早く来てくれなかったの…!!」

涙に混じった母親の声が、リビングに響き渡る。

奈緒は、甘んじて覚悟していた洗礼を受けていた。



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