きみが見た光
「私はもうここにいてはいけないの。だから、行かなくちゃ」

そう言った奈緒の顔は、寂しそうに笑う。

行くって、どこに?

また俺の想いがすり抜けていく…

解ってたけど、思っていたよりも息ができなくなるくらい、苦しいんだな……

現実が阻む壁の隔たりは思っていたよりも大きくて、

所詮、俺は兄貴のおさがりにしか過ぎなくて、

もう一度、奈緒に笑える日がくるとすれば、それは俺の手の届かない、どこか……

「真白くん」

奈緒は、俺の顔を覗き込んだ。

「もう、私のために泣いたりしないで」

何も言えない。
もう俺には、紡げる言葉も想いも
流す涙も…

「私のこと、好きだって言ってくれてありがとう。忘れない

奈緒は少しだけ微笑んで、俺の前から姿を消した。



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