きみが見た光
兄貴が好きだった…。

この曲は確か…

あまりクラシックに詳しくない俺さえも知っている。兄貴から何度も聞かされたこの曲は、大切な思い出の曲……

気づけば俺は立ち止まり、聞こえて来るそのピアノの曲に耳を傾けていた。

魂のすべてを注ぎ込むように奏でる彼女に、俺は釘付けになっていた。

彼女の横顔が窓から降り注ぐオレンジ色の眩しい光を受けて、白い肌がさらに白く見える。

「ちくしょう…!」

俺は吐き捨てるようにつぶやいた。

思い出さずにはいられない、兄貴と奈緒との楽しかった思い出…

兄貴を捨てたくせに
兄貴を捨てたくせに
兄貴を捨てたくせに…!!

あの頃抱いていた昔の感情が蘇る…

俺は、あの時…
奈緒のことを……



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