きみが見た光
「…真白くん」

入口のドアが開いたことも気付かず、その前でうずくまっていると、奈緒が俺に声をかけた。

俺はゆっくりと上を向く。

俺の情けない顔を見た奈緒は、驚いていた。

「…どうして」

彼女はあの時のようにしゃがんで、俺の目線の高さになると、細く長く伸びる白い指で俺の濡れた頬に触れた。

「どうして、泣いてるの?」

そうだ。俺は、なぜか溢れ出す思い出を受け止められず、泣いていたのだ。

「なんでもない」

ハッと我に返る。そして彼女の冷たい指を払い、俺は立ち上がった。



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