きみが見た光
俺はあからさまに嫌な顔を浮かべ、キャンバスに向き直した。

すると、彼女は書きかけの絵を覗き込んできた。

「すごく上手なのね」

関心しているのか、意外だったのか俺には解らなかったが、奈緒は目を丸くして俺のキャンバスの絵を見つめていた。

「…帰れよ。また写真撮られる」

「あぁ…」

俺に冷たくそう言われた奈緒は、一歩引いた。

「…ごめんなさい。だって真白くんが泣いたりするから…」

目を伏せた奈緒が俺の後ろ姿に謝った。

「今度なんかされたら、橘との間がヤバいんじゃねぇの?」

筆を動かしながら、俺は皮肉をタップリと込めて言ってやった。すると、彼女の瞳は驚きで揺れる。

「…見てたの?」

「ホテル街に行くところをな」

俺がそう言うと、逆上した奈緒は背中を拳でポコポコと叩いてきたのだ。



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