きみが見た光
「…橘先生ね、生活指導の担当だから生徒には厳しいけど、みんなが思ってるほど、イヤな人じゃないよ。優しくて、いい人」

「…昨日の夜、二人して随分楽しそうだったもんな?」

振り返りもせず、俺は鼻で笑う。

「だから、先生とはなんにもないよ…」

言い訳がましく言う彼女。それは少しイラ付いていた。

「あんたがその気がなくても、向こうはあるかもしれねぇよな? 腰に手ぇ回しちゃってさ」

「…真白くん」

遮るようにしてつぶやく奈緒の声はすごく寂しそうで、二人しかいないこの美術室の中に散っていった。

「私の中に、健【タケル】は生きてるの。健が幸せになるためには、私が幸せにならないといけないの…」

「…なんだそれ? 兄貴に言い訳してんの?」

「そうじゃない」

揺れた瞳で、奈緒は俺の顔をじっと見つめていた。



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